医療保険サービス
訪問薬剤とはその名の通り、患者さんのご自宅や施設に薬剤師が訪問し、お薬を直接届けるサービスです。薬を届けるのみならず、服薬指導や残薬の管理、薬の見直しまで行ってもらえます。服薬が必要な状態にも関わらず、通院や来局が困難な患者さんでもご自宅にいながら薬剤師の専門的なサポートを受けることができます。
たとえば訪問看護などの在宅医療サービスを利用されている患者さんの中には、薬の管理などを訪問看護師さんにお願いしている、という方も多いかもしれません。
もちろんこれが悪いというわけではありません。しかし、訪問看護サービスは1回の訪問時間が区切られており、一定の制限があります。
医療保険と介護保険、どちらの保険で訪問看護サービスを利用するかにもよるのですが、通常30分〜90分程度です。また、毎日来てもらえるかというとそんなことはないので、看護師さんは限られた時間の中で必要な処置を行っています。
つまり、看護師さんが薬の管理に多くの時間を割くことはできません。肝心の看護に充てられる時間を減らさなければならなくなってしまうからです。
これに対して、薬剤師による訪問薬剤サービスには時間の制限がありません。お薬に関することであれば、患者さんが納得できるまでサービスに時間を使うことができます。
主なサービス業務内容は次のとおりです。
薬の保管状況の確認や副作用のモニタリング、残薬の調整まで、薬剤師が自らの目で見て確認します。これらは、調剤薬局の窓口で行う業務とは大きく違う点として挙げられます。
特に残薬の調整は、訪問薬剤では重要な業務の一つです。
患者さんが薬をきちんと飲めているか、飲めていない場合はなぜ飲めていないのかをしっかりヒアリングしなければなりません。残薬を確認し、必要に応じて変更することも検討します。
薬は1種類だけではなく、数種類の薬を服用している方がほとんどです。この場合、患者さんが飲み方を間違えていたり、それぞれの薬の保管方法についてきちんと理解できていなかったりすることもあります。
薬の中には食後でないといけないもの、逆に空腹時でないと効果が薄れてしまうものもあります。錠剤などは常温保存のものが多いですが、薬によっては冷蔵庫で保管しなければならない薬もあります。このように薬の効果を最大限発揮させるには、正しく服用・管理する必要があります。
保管を正しくできていないと薬の効果はもちろんのこと、安全性を担保することができません。訪問薬剤師ならではの大切な仕事の1つです。
もう1つ、訪問薬剤師の大切な役割としては、医師への処方提案があります。
<処方提案とは>
薬の専門知識を持つ薬剤師が、患者さんの要望を代弁して医師へ薬に関する提案を行うことです。薬が余ってしまう方のほとんどは、服用回数の多さやそもそもの薬の数の多さが原因です。しかし、患者さんから直接医師に薬を減らしてほしいと伝えるのはなかなかハードルが高いですよね。
このようなときに頼りになるのが訪問薬剤師です。患者さんと医師の橋渡し役となり、薬自体を見直して数を減らしたり、服用回数の少ない薬を提案したりするなど、医師と連携し患者さんにとって最適な処方内容を考案していきます。
訪問薬剤サービスを利用できるのは、原則として「自力での通院が困難な患者」という基準があります。
また、通院ができる場合であっても、たとえば認知症患者や高齢者の単身住まいなど、第三者からの管理指導がなければ「薬を適切に服用することを忘れてしまう」ような方も対象となります。
上記のような場合にはどなたでも利用できますが、保険適用で利用するためには患者さんの居宅と調剤薬局の距離を気にしなければなりません。
原則として保険適用するためには訪問距離が16km未満でなければなりません。それ以上離れている場合は、基本的に医師の特別な指示がない限り自費でのサービス利用となります。また、利用できる回数も基本的には月4回までです。
医師によるその他の在宅医療サービスなどを受けていない方はそもそも訪問薬剤サービスの対象外だと勘違いされている方がいるのですが、それは誤解です。利用条件に該当すれば誰でも利用できるサービスなので、興味のある方はご自身やご家族が訪問薬剤の対象となるか、まずは相談してみることをおすすめします。
訪問薬剤サービスの利用費用は、管理指導料+薬代によって決まります。
また、同じ建物内に訪問薬剤サービスを利用する人が多ければ多いほど費用は割安になります。
【建物内に訪問調剤を行う患者さんが1人しかいない場合の管理指導料】
医療保険では650円の負担となります。
【同じ建物に訪問調剤を必要とする方が2~9人いる場合の管理指導料】 医療保険で320円です。
【同じ建物に訪問調剤を必要とする方が10人以上の場合の管理指導料】 医療保険で290円になります。
※1割負担の場合を想定 ※ほか、別途薬代がかかります。 |
また、訪問にかかる交通費は実費を患者に請求することが認められています。交通費をどのような料金体系にするかは薬局により異なりますが、基本的にはこれらの料金に交通費が上乗せされると思っていてください。
薬剤師の訪問薬剤管理指導は、介護保険を使う場合と医療保険が適用となります。どちらの保険を使うかにより、その名称が異なります。
要介護(支援)認定を受けている方は、医療保険よりも介護保険が優先されるため、訪問にかかる指導費用には介護保険が適用されます。
介護保険が適用される訪問指導を「居宅療養管理指導」と呼ぶ一方で、医療保険が適用される訪問指導を「在宅患者訪問薬剤管理指導」といいます。
どちらも薬剤師が居宅を訪問するという点は同じですが、保険制度によって料金体系も異なります。
ここでは医療保険を適用する場合を想定して、具体的な指導料を3つ見ていきましょう。
1.在宅患者訪問薬剤管理指導料
単一建物居住者数 | 点数 | |
1人 | 650点 | |
2〜9人 | 320点 | |
10人以上 | 290点 | |
加算 | 麻薬管理指導加算 | 100点 |
乳幼児加算(6歳未満) | 100点 |
在宅患者訪問薬剤管理指導料とは、薬剤師が医師の指示の下、患者さんのご自宅に訪問して薬歴管理や服薬指導などを行う場合に算定できる管理料です。基本的に、月4回までという制限があります。ちなみに、同意書などの作成は必要ありません。
2. 在宅患者オンライン服薬指導料
点数 | |
在宅患者オンライン服薬指導料 | 57点 |
2020年に診療報酬が改定されました。これにより、在宅医療を受ける患者さんに対してオンラインでの服薬指導が可能になりました。
オンラインで服薬指導を行った場合は、「月1回のみ」算定できます。さらに算定には前述の在宅患者訪問薬剤管理指導料を月1回算定していることが条件になっており、オンラインでのみ服薬指導を行うことは認められていません。
3. 在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料
訪問薬剤師の大切な役割として、残薬管理と医師への処方提案があることは先述の通りです。処方医に対して照会を行い、処方に変更が行われた場合は、所定点数に加算することができます。
点数 | |
残薬調整に係るもの以外の場合 | 40点 |
残薬調整に係るものの場合 | 30点 |
<残薬調整に係るもの以外の場合>
たとえば次のような状況において、処方医に対して連絡・確認を行い、処方内容の変更が行われた場合です。
ア 併用薬との重複投薬(薬理作用が類似する場合を含む。)
→例)同時期に複数の医療機関を受診などした際に同じ薬効の薬を処方された場合
イ 併用薬、飲食物等との相互作用
→例)飲食物が医薬品の効力や副作用に影響する場合
ウ そのほか薬学的観点から必要と認める事項
→例)アレルギー歴や副作用歴などの情報に基づき処方内容を変更する場合
<残薬調整に係るものの場合>
飲み忘れなどで余ってしまった残薬について、処方医に対して連絡・確認を行い、調整が行われた場合に算定します。これにより薬の廃棄を減らしたり、患者さんにとっては薬代を抑えたりすることができます。ただし薬は用法用量を守って服用することが前提なので、この調整は頻繁には応じてもらうことはできないので注意しましょう。
患者さんが訪問薬剤のサービスを希望する場合、以下のような流れで訪問薬剤の利用が進んでいきます。
また、かかりつけ医がおらず外来受診をしている方でも、通院が困難なため訪問薬剤を利用したいという場合もあるでしょう。そのような方でももちろん訪問薬剤を利用することができます。この場合は以下のような流れになります。
薬剤師から説明を受けた内容や費用、訪問日時などに納得できれば、申し込みを行います訪問薬剤の開始
訪問薬剤スタート。お薬について疑問に思うことは何でも薬剤師に相談してみてください。