医療保険サービス
訪問マッサージとは、「あん摩マッサージ指圧師」の国家資格を持つ人が自宅などに訪問し、マッサージ治療を提供してくれるサービスです。資格保有者しか施術ができない理由は、あん摩と指圧は施術を受ける相手に体重をかける上、体の深い部分にまで刺激を与える施術です。正しい方法で行わないと、症状が回復するどころかかえって悪影響となってしまいかねません。
そのため、専門的な知識と技術を兼ね備えた施術師でなければこのサービスを提供することはできません。
訪問マッサージを定期的に利用することで、むくみやしびれの原因にもなる血液やリンパの巡りが良くなったり、慢性的なコリや疼痛を和らげたりする効果が期待できます。そしてこれらの結果により関節の可動域が広がると、副次的な効果として筋力や身体機能・新陳代謝の向上につながっていきます。
似たサービスとして、「訪問リハビリ」が浮かぶ方もいらっしゃるでしょう。
訪問リハビリは、主に要支援・要介護者の方を対象としたサービスで、理学療法士や作業療法士が施術を担当します。「日常生活の自立を助ける」ことを目的としており、筋力をアップさせたり、関節可動域を広げたり・維持させたりするために行います。
では訪問マッサージでは具体的にどんなことをしてもらえるのでしょうか?繰り返しになりますが、「あん摩マッサージ指圧師」しか訪問マッサージを提供することはできません。そこで、「あん摩」・「マッサージ」・「指圧」の3つに分けて詳しく見ていくことにしましょう。
<あん摩>
あん摩は、①なでる ②押す ③揉む ④叩くなどの手技を用いて、体が本来持つ恒常性維持機能に働きかけ、健康を増進させる手技療法です。
中国で生まれた治療法で、明治時代より前から日本で行われていたようです。原則として、心臓を中心にそこから手先など離れる方向に向かって同一圧・同一速度・同一方向に 衣服の上から施術を行います。
<マッサージ>
一方でマッサージは、皮膚に直接触れることで刺激を与える手技療法です。こちらはヨーロッパから伝わりました。あん摩とは逆方向、つまり指先などの末梢部から心臓に向かって施術を行い、血液循環やリンパ循環の改善を目指します。血行改善、筋肉の疲労回復などの効果が期待できるため、美容目的や疲労回復目的で行われることも多いです。
<指圧>
あん摩やマッサージが海外から伝来した技法であるのに対し、指圧は日本独自の手技療法です。手指や手のひらで体に「圧」をかけて、人体に本来備わっている自然治癒力を促進させることを目的としています。
なお、指圧でもあん摩と同様に衣服の上から施術が行われる場合が多いです。
訪問マッサージには、血液やリンパの循環の改善はもちろん、関節の可動域の改善が期待できます。これにより、痛みの原因となっている症状を緩和し、より良い日常生活へと導きます。他にも、精神面への好影響も見込めるはずです。
たとえばマッサージによるスキンシップやボディタッチは、不安を緩和し安心感や安らぎを与えることにもつながります。
また、定期的に訪問するスタッフとの会話やふれあいが、患者さんの生活に良い刺激や変化を与え、プラスの効果をもたらすことが期待できます。
訪問マッサージが利用できる人は、「日常生活の動作に大きな支障があり、自力で医療機関に通えない人」です。要介護認定を受けた高齢者のみならず、在宅療養が必要な患者さんや障害者も、自力で医療機関に通院することが困難な場合は誰でも利用できます。
具体的には、以下のような症状がある人を対象にしています。
いずれの場合にも医師の同意書、または診断書が必要です。
なお、全額実費で費用を負担するのであれば、医師の同意書・診断書がなくても施術を受けることはできます。
訪問マッサージの費用は、以下3つの要素から成ります。
それぞれ詳しく解説していきます。
<施術の種類・部位数>
訪問マッサージの施術には、「マッサージ」と「変形徒手矯正術(へんけいとしゅきょうせいじゅつ)」の2種類があります。変形徒手矯正術なんて聞き慣れない言葉ですよね。
変形徒手矯正術とは、関節可動域の拡大と筋力増強の促進、および症状の改善を目的として行われる徒手技術です。たとえば脳障害などの後遺症や、リウマチなどが原因で機能が低下している関節に対し、日常生活ができるようになるまで回復させることを目的としています。
費用は単純明快で、マッサージは1部位(1単位)350円、変形徒手矯正術を受ける場合、1肢450円が加算されます。
訪問マッサージにおけるマッサージの部位には、以下の5つがあります。
全部で5部位なので、施術料は最大で350円×5部位で1,750円です。変形徒手矯正術を受ける場合、450円が上乗せされます。
※変形徒手矯正術はあくまでもマッサージの加算としての扱いとなるため、変形徒手矯正術のみを単独で実施することはできません。マッサージと併用することが前提となります。
※この変形徒手矯正術に限り、同意書の有効期限は1ヶ月です。そのため、毎月利用するには毎月医療機関にかかって再同意を得る必要があります。
<訪問にかかる距離>
訪問マッサージを利用すると、当然ですが施術師は移動のための費用がかかりますよね。往療料(出張料)の金額は、訪問にかかる距離が4km以内か4kmを超えるかによって変わってきます。
金額(10割の場合)は、4km以内の場合で2,300円、4kmを超える場合で2,550円です。
利用者の自己負担額は、施術料と往療料の合計金額から、それぞれの年齢や収入の状況に応じて1割〜3割を負担します。
それでは実際に訪問マッサージを利用すると、いくらくらいになるのでしょうか。
医療費の負担割合や施術内容ごとに具体例を用いて説明します。
【3部位(躯幹・右上肢・左上肢)にマッサージ・訪問距離4km以内 の場合】
項目 | 金額(円) | 数量 | 計(円) |
施術料 | 350 | 3 | 1,050 |
往療料 | 2,300 | 1 | 2,300 |
計(10割負担) | 3,350円 | ||
費用の目安(1割負担の場合) | 335円 |
<変形徒手矯正術を受けた場合の料金例>
変形徒手矯正術を受ける場合、1肢につき450円が施術料に加算されます。
【2部位(右上肢・左上肢)にマッサージ・2肢に変形徒手矯正術・訪問距離4km以上】
項目 | 金額(円) | 数量 | 計(円) |
施術料 | 350 | 2 | 700 |
施術料 | 450 | 2 | 900 |
往療料 | 2,550 | 1 | 2,550 |
計(10割負担) | 4,150円 | ||
費用の目安(1割負担の場合) | 415円 |
医療保険が適用される場合は総額の1~3割で済みます。2割の自己負担であれば600円~800円、1割の自己負担であれば300円〜400円、3割負担であれば900円~1200円程度です。有資格者しかできない施術を受けて1割負担なら400円程度に収まるため、大幅に利用料金を軽減できますね。
訪問マッサージには、原則として医療保険のみが適用されます。介護保険は適用されません。
訪問マッサージは要介護認定を受けていない人でも、目的に当てはまれば誰でも利用できます。そのため、介護保険ではなく医療保険が適用となるのです。
よく混同されるのですが、訪問リハビリテーションの場合は、医療保険と介護保険のどちらかが適用されます。
※医療保険の適用を受けるには、医師の同意書もしくは診断書が必要です。
※保険の適用に際して介護認定の有無が問われることはありません。
医療保険を使って訪問マッサージを受けるには、そのマッサージが症状の治癒・改善に有効であることを医師に認めてもらわなければなりません。したがって医師の同意書・診断書が必要というわけです。
「全額負担してもいいから訪問マッサージを受けたい」という場合はこの限りではありません。あん摩マッサージ指圧師は、医師の指示がなくてもマッサージをすること自体は可能だからです。しかし、保険を適用するためには傷病名が必要で、かつ医師にしか診断権利がないため、保険を適用したいと思ったら同意書および診断書が必須となります。